絶唱をテーマにした作品はこれで5作目。今回は戦地から引き揚げてきた順吉(舟木一夫)と病床で待ちわびる小雪(和泉雅子)との最後の対面シーン。しかし7年ぶりの再会は、あまりに遅すぎました。小雪は順吉の顔を見て息をひきとります。ノーカットでセリフ字幕入り編集です。
さて、西河克己監督、舟木さん和泉さんコンビの映画「絶唱」。名作ですがいくつか疑問も。大江賢次氏の原作を読むとその疑問が少し解けました。
◆順吉の手紙が途絶えて音沙汰がなくなり、戦争が終わっても帰ってこない。
⇒これは順吉がシベリアに抑留されていたからでした。長く過酷な捕虜生活に生き残れたのは小雪の存在でした。
◆山育ちで活発で元気な小雪が病に倒れたのは。
⇒結核病棟で看護補助師として献身的に働いていたからでした。他の看護師が避ける重病患者にも小雪は親身になって世話しました。当然ながら自らも結核に冒されてしまうことになりました。ヨイトマケやトロッコ運びなど重労働にはヘコタレませんでしたが伝染病の病魔には倒れました。
◆天性の純真な心を持つ小雪は他者を愛することに徹します。小雪は順吉の父が結婚を許さない限り、妻とは思っていませんでした。その頑固オヤジの死を聞かされたときも小雪は悲しんでいます。憎い親父の死さえ小雪は愛おしんでいます。いったい小雪のこの純真さはどこから来たものでしょう。
⇒原作では小雪の出生の秘密も語られます。実は小雪は山番夫婦の実の子どもではなかったのです。実の子は早産で死んでしまいます。嘆き悲しむ夫婦でしたが、しばらく後のある雪の日、峠で倒れている身重の女の巡礼を救いました。助けられた巡礼は夫婦から死んだ子どもの話を聞き無事に生まれた女の子を譲って旅立って行きます。夫婦は「お大師さまからのお授かりもの」として小雪を育てたのでした。小雪はたぶん御仏がこの世に使わした子だったのでしょうね。
原作の最後のページ。墓地は木挽唄の土地でした。雨降るなか埋葬を済ませた順吉たちが墓標を囲み童謡を唄ってたとき、そのとき奇跡が起きます。小雨にけむる靄(もや)の彼方から山鳩の鳴き声が聞えてきます。いや小雪だ、小雪が呼んだのだ。「小雪!小雪!」と順吉が呼び返します。そして順吉が墓標を抱いて泣き崩れ慟哭する場面で原作は終わります。
小雪は山鳩となって御仏のもとに帰って行ったのだ、とわたしは思いました。

MASK9.COM - FOR YOU, WITH LOVE.