(トランペット)平田聖奈
(アルトサックス)西川静

2015年5月23日 トントレフ・ヒコ(大阪市)にて収録
at Tontreff Hiko (Osaka City) on 23 May 2015

【作曲者による解説】
Informeとは、翻訳すれば「不定形の」程度の意味を持つ言葉です。フランスの思想家バタイユ(1897〜1962)が1929年に雑誌ドキュマン(バタイユが首席編集責任者を務めた)に掲載した「Informe」という短文に端を発します。その当時、この概念はそれほど重要視されるわけではなかったのですが、1992年のドキュマンの再刊行時に一躍注目を集め、世紀末の思想家たちの興味の対象となりました。ユベルマン「不定形の類似、あるいはジョルジュ・バタイユによる視覚的な悦ばしき知(1995)」クラウスとボワの共著「不定形-使用説明書(1996)」等はバタイユの不定形の概念を押し拡げ、援用し、芸術の世界に新たな価値観を確立しようと試みました。

また、戦後の芸術の動向「アンフォルメル」にも言及しておくべきでしょう。言葉の音から察することができるように、アンフォルムと類似する概念を有する芸術運動で、フォートリエ、デュビュッフェらを中心的作家とし、その極限までに抽象化された作品は、まさしくバタイユの言うところのアンフォルムとリンクします。
クラウスとボワは、新たなアンフォルム観をもって、さらに後の世代の芸術家(フォンターナ、モリス、トゥオンブリ等)の作品にアンフォルムの概念を適用します。

ここまで、アンフォルムの哲学的意味に関しては全く触れずにきましたが、これは、非常に多様な在り方を示しており、この場では説明しきれないためです。バタイユ、ユベルマン、クラウスとボワでは、全く違う定義付けのもと、壮大な論考が展開されますが、3者(4者)に1つだけ共通点があり、それは、“形態的同一性を成立させないその在り方が類似している”ということです。このトートロジカルな発話そのものが、まさしくアンフォルム的なトートロジーであり、なんとも洒落ていますが、この文章を読んだ際、“それでは、世界を不定形なものだと唾棄してしまっているのではないか”と疑問を持たれた方もおられるかもしれません。その指摘は全く正しく、むしろ、バタイユは積極的にそれを肯定しました。すなわち、それは唾棄ではなく、変質であり、不定形な世界の現前である、と。

今作品では、そのような哲学的概念、芸術的動向を背負った“Informe”の世界に想いを馳せたものとなっております。
この曲は、哲学のいうように、形態の変質の途上かもしれません、あるいは、アンフォルメルの作品のように、時に抽象的、時に情動的なものかもしれません。あるいは、フランス語“Informe”が意味する“不定形の”描写かもしれません。
音楽で何を表現しているかはさほど問題ではなく、それを構成するいくつかの部分が“形態的同一性を成立させていない、しかし不定形の観念のもと類似している”ことがより重要であると言えるでしょう。

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