金沢大学附属病院神経科精神科の菊知充教授に「被災者のこころのケア」についてお話を伺った。
ーー菊知さんは奥能登の病院で、一週間 精神科の外来を担当してこられたそうですね。
《菊知教授》:はい。石川県珠洲市の珠洲市総合病院と、能登町の公立宇出津総合病院で外来の診察室に寝泊まりしながら診察を行ってきました。診察した患者さんは2つの病院合わせて70人で、「また地震が来る?という不安感」だけでなく、「疲労による抑うつ気分」や「先の見えない不安感」などの症状を訴えられる方が多かったです。
避難生活が1カ月を超えていますので、被災者の皆さんの心に相当な負担がかかっていることを感じました。
ーー中でも印象的な患者さんがいらっしゃったそうですね。
《菊知教授》:珠洲から金沢へ避難されている方なんですが、金沢から5時間かけて 受診に来られたというんです。「金沢の病院を紹介する」と伝えたのですが「珠洲が好きなんや、金沢にいてもすることがない」とおっしゃっていました。
一方で、珠洲市の避難所で避難者の方をまとめる役割を持っている高齢者の方は、相当疲れておられるのですが、その姿から「使命感」や「誇り」を感じました。今回改めて、人間には「慣れ親しんだ集団の中で、役割を持って生きること」が大切なのだと痛感しました。
ーーなるほど。こうした中で、ここからの心のケアで必要なのはどんなことでしょうか?
《菊知教授》:被災者の一般的な心の変化を時間経過とともに表したデータによると、皆さんの頑張りや連帯で何とか乗り越えてきた時期を経て、現在は過労やストレス、ここまで抑えてきた感情などにより心身の不調が起こりやすくなる時期に入っています。具体的には頭痛や腰痛、不眠の問題等が生じたり、不安や抑うつ感、喪失感を感じたりします。
また、しばしば恐怖感が蘇ったり、アルコール関連の問題が起こりやすくなったりする時期にあたります。特に強い恐怖を体験した場合に「被災状況を繰り返し思い出す」「感情が麻痺する」「眠れない」などの症状が出る場合は「心的外傷後ストレス障害」の可能性がありますので十分ご注意ください。
また1カ月間、このような症状が続く場合には、お近くの精神科や心療内科に相談いただくか、「石川こころのケアセンター」(フリーダイヤル 0120‐333‐247)にご相談ください。
ーーこうした中で、被災者の皆さんはどんなことに気を付ければよいでしょうか?
《菊知教授》:被災者の方は、避難所などでも夜は体を冷やさないように気を付けてよく寝ること。その一方で、日中は可能なら「何かの役割」を担当し、体を動かしながら周りの人とコミュニケーションを取ることが必要だと思います。体を動かすことで不安が軽減しますし、時には「やりがい」という活力につながることもあります。
ーー2月8日には、こんな試みがありました。
金沢市の避難所で行われた、昼の炊き出し。準備をするのは…避難所で暮らす被災者自身です。参加した人は「避難所で何もしなくてもいいのは辛いんですよ。みんな朝から晩まで働いてきた人たちだから。こんな風にみんなで集まってワイワイ作ったりするのは、みんなも生き生きしている」と話しました。
今回作ったのは150食。野菜たっぷりの煮物、味付けもふるさと輪島のしょうゆ味です。手作りの漬物も添えました。味は「輪島の味、南志見の味のものを作ろうという事で、材料も揃えて頂いて、地元の主婦たちが作ってくれておいしいです」と好評でした。
《菊知教授》:これは素晴らしい試みだと思います。まさに「役割」が「やりがい」「活力」に変わっていきますし、今後避難所生活を終え、日常生活に復帰していく際にも大切な行為になっていきます。
ーーそれでは私たちを含め、支援者ができる心のケアは何でしょうか?
《菊知教授》:3つのポイントを、覚えておいてください。1つ目は「そばにいてあげる」いたずらに話しかける必要はありません。被災者のそばに寄り添っているだけで、大きな安心感を与えることになります。
2つ目は「受け止める」被災者が話したい話を、静かにうなずきながら聞いてあげる。怒りや悲しみの感情には同意や反論はせず耳を傾ける。これまでに抱え込んできた気持ちを、表に出す手助けをしてあげてください。
3つ目は「押し付けない」ほとんどの被災者は、自然と心を回復させていきますので、優しく寄り添いながらその過程を見守ってあげてください。
ーー支援者の皆さんもご自身の健康に十分注意しながら、被災者の皆さんを支えてほしいと思いますね。
《菊知教授》:被災者の心の回復には、時には年単位の時間がかかったりします。焦らずゆっくりと寄り添いながら、地域の復興と共に心のケアをしてほしいと思います。
※聞き手 石川テレビ 稲垣真一アナウンサー

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