本動画 https://www.youtube.com/watch?v=xOqZZ2iY4Ro
☆1
十年ぶりに実家に帰る
あの駅はもう廃れてしまったかな
最近じゃ電車も本数が減って
寂しい駅になってしまったって
おばあちゃんが電話で教えてくれた
電車の窓を開けると 生暖かい風が入ってくる
水の張られた田園に風が走った
電車からの景色は懐かしくて
つい昔のことを思い出してしまう
窓に向けていた顔を車内に戻すと
向かい席のおじさんが気持ちよさそうに目を閉じている
私はそれに笑顔を向けてまた外を見た
どうしてここはこんなに夏の匂いがするのだろうか
私に あの日を思い出せと言っているのだろうか
制服をきた綺麗な夏の記憶を
☆2
「君に話しかけるのはもう最後にするよ」
あの日 オレンジ色の教室に二人
君は静かに笑って言った
私にはその言葉が理解できなくて
ただ笑って答えたのだ
「そう わかった」
君は本当によく冗談ばかり言っていた
「うん ホントに大好きだった 君に出会えてよかったよ」
明日も学校があるのに
君はどうしてもう会えないみたいに言ったのかな
あの日の冗談はなんだかすごく本気みたいで
君の潤んだ瞳に心臓がとくんと揺れた
「またあした」
そう言うと君は少し目を大きくして 少したって言う
「……うん、そうだね」
ラムネのビー玉を取るのを諦めたあの夏
綺麗な空が突然濡れた
静かな君の笑顔がずっと頭から離れなくて
傘を忘れた私は制服を濡らしたのだ
次の日も空は雨で
熱い道路を冷たく濡らした
☆3
切ない記憶を乗せた電車は あっという間に田園をすぎた
水に反射する光が 君の笑顔を思い出させたから
私はその眩しさに目を細めたのだ
あの日 もし君の不器用なお別れに気がついていたら
今までずっと 後悔していなかったかもしれない
きちんとサヨナラができていたら
今も こんなふうに胸が苦しくなんてならなかったかもしれない
「ここで降りなきゃ」
君との明日が来なかった あの日の雨は苦しくて
プシュー
電車が発車してしまって何もないこの駅で
甘酸っぱい思い出を背に 私は静かに前を向く
忘れはしない 制服の夏

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